認知症は本人にも家族にとっても、大変つらい病です。
しかし放っておくわけにはいきません。
他の病気と違って、脳を静かに侵食していくこの病は、体が元気であれば一般の人と変わらないくらいの行動力も持っていて、むしろ自制心がきかない分、大変な事故を引き起こす可能性も持っています。
本人や身内にかかる迷惑だけならば不幸中の幸いですが、責任の重さが社会的なレベルで問われるようになれば、地域の人たちを多く巻き込んだトラブルに発展してしまいます。
最も避けなければならない最悪の事態を想定し、目を背けずに認知症と向き合う必要があります。
介護をする側の人間にとって、医療や福祉関係の知識を持っていない場合、できることは限られてきます。
しかしその中でも認知症の進行を遅らせることができ、大きなトラブルを未然に防ぐための対策というのも存在します。
認知症の患者がわがままを言ってトラブルを起こしてしまう大きな原因に被害妄想というのがあります。
例えば健全な人が何か物をなくしたとき、どこかに忘れてきたのだろうか、どこに置いたのだろうか、もしかすると盗まれたのではないかというような形で様々なケースを頭の中に思い浮かべます。
しかし認知症患者はこの考える思考能力というのが乏しくなっています。
従って物がなくなった場合、即座に誰かに盗まれたという被害妄想を抱いてしまうのです。
この現象は、傍から見れば大変わがままに思えるかもしれませんが、一方で自己防衛本能が働いていると思います。
思考能力が低下している状況で自分自身を責めるというのは、生きる気力をなくしてしまいます。
誰もが自分自身の存在意義をもって生きることができているのは、ある程度自分のやっていることが正しいという認識があるからに違いありません。
自分の存在を否定するということは生きる意味をなくすということに等しいわけです。
よって認知症患者は被害妄想拡大させることによって、自分の存在意義を認めさせようとしているわけです。
この点を理解しておけば、相手の一件わがままに思える言動や行動に対する対応というのも自然に変わってくることでしょう。
大切なことは本人を否定しないことです。
盗まれたと主張するのであればその意見を一度完全に受け入れてあげましょう。
その上で必要であれば同情の意を伝え、一緒に悲しんであげると良いです。
人がヒステリックになってしまうのは自分自身の主張が伝わらなかったり、思い通りにならないからです。
これは健常者にも同じことが言えます。
患者を前にして大切なことは、正しいことが何かを認識させることではありません。
自我をなくしてパニックに陥らないように、サポートしてあげることが大切なのです。
大変な忍耐力を必要とすることですが、被害妄想が生まれるまでのメカニズムを以上のように承知しておけば、相手を冷静に見ることができるでしょう。
できるだけ相手の気持ちと立場に寄り添いながら、大きなトラブルを避けるようにする努力が必要です。